子どもが複数の場合、できるだけ均等に相続させたい方もいれば、特に苦労をかけた1人に、かけた苦労の分だけ多くの資産を遺したいと考える方も。遺す側の「想い」を相続に反映させたいときこそ、生前の対策が重要です。
介護の苦労をかけた娘に、実家を相続させたい
Cさん(50代・女性)のご相談は、ご実家の相続に関することです。Cさんが相談にいらしたのは、長年介護してきたお母様(以下:母)が亡くなった3ヶ月後のことでした。Cさんには3歳年上の兄がいます。母から相続する予定だった実家を、兄が1/2相続したい、と求めてきたので、どうしたものかと困っている、との相談でした。
兄とCさんや母との関係は以前から良好でした。ただ、母の介護には、兄はほぼノータッチ。身の回りの世話は、兄や兄嫁より実の娘であるCさんがする方が、母にとって気兼ねが無くていいだろう、という暗黙の了解があってのことでした。
しかし、日頃からCさんの負担を慮っていた母は、「介護のことで苦労をかけたから、実家はCさんに相続させる」とCさんにも兄にも伝えていました。兄も、Cさんの負担を労いこそすれ、異論を唱えることはありませんでした。Cさんは、相続後は自身が住んでいる家を売却し、実家をリフォームして住もうと夫婦で考えていました。
相続における「平等」とは…?
母を看取り、葬儀などの一切を終えた後、兄から「実家を査定したら3,000万円になった。きょうだいで平等に分けよう」と告げられたそうです。母は家族の前でたびたび相続の話題を口にしていましたし、Cさんが実家を相続することに兄も了解しているものと思っていました。しかし、母の前では言い出しにくかったようですが、兄は、相続は介護とは切り離して考え、きょうだいで平等に相続するべきだと以前から考えていたようです。
今回のケース、残念ながらCさんと母が望んだように、実家を全てCさんが相続することはかないませんでした。兄が主張する通り、兄には相続資産を半分もらう権利があります。後々のトラブルを避けるために、実家を兄との共有にすることは避け(※注1)、Cさんの単独所有としました。相続財産はほぼ実家のみだったため、実家を担保とする「不動産担保ローン」を組み、兄に現金で相続財産の半分を支払うことで、2分の1ずつの相続としました。 母にとっては、介護の苦労を担ってくれた娘に相続させるのが「平等」と思っていた事でしょう。しかし、兄としては、絶縁や仲違いをしているというわけでもなく、関係が良好だったからこそ、介護と相続は切り離して財産を按分するのが「平等」と考えたのです。どちらの言い分も、決して筋の通らない主張ではない点に「平等」の難しさを感じます。
特定の人に多く資産を遺したいときこそ、遺言書が重要
生前に母が遺言書を書いてくれていれば、兄と分けることなく、Cさんが実家を相続することが可能でした(※注2)。Cさんは、「まさか我が家に遺言書が必要だったとは、思いもしませんでした」とおっしゃっていました。Cさん同様、「遺言書は資産家の方が書くもの、一般家庭の我が家ではそんなおおげさな…」と考える方が多いです。
Cさんの母のように、特定の相続人に全財産あるいは法定相続分以上の財産を遺したい場合は、ぜひ遺言書を遺してください。「法定相続」ときくと、言葉のイメージから「法律で定められているのだから、この通りに相続するべき」と考える方がいらっしゃいます。しかし、法定相続分とは、遺言書がなく、また、様々な事情から「遺産分割協議」という相続人同士の話し合いが困難な場合の、各相続人の取り分を定めた割合です。つまり、有効な遺言書が遺されている場合は法定相続より遺言書が優先されるのです。
弊社の遺言書作成サポートでは、「附言事項」にご家族への想いを記すことをお勧めしています。自由な形式でご遺族へ伝えたい想いを記載できるメッセージ欄のようなものです。ここに、家族への感謝の想い、相続の割合の理由などを記載することで、遺す側の真意が、より伝わりやすくなります。遺言書の遺し方にも様々な方法がありますので、弊社セミナーや個別相談で、お気軽にお尋ねください。
※注1:実家を兄とCさんの共有とすると、将来的にCさんが売却を考えた際に
・兄の合意が必要
・さらに子世代に相続する際に複雑になる
等のリスクがあります。
※注2:ただし、兄が「遺留分侵害額請求」をした場合、その限りではありません。遺留分とは、遺言によって相続できなかったとしても最低限受け取れる相続の割合のこと。今回のケースにあてはめると、母が100%の財産をCさんに相続させると遺言書を遺していた場合でも、兄はCさんに請求すれば、遺留分(この場合は、法定相続分の1/2)だけはもらうことができる、という制度です。