事例紹介

相続不動産売買

高齢の両親が住む実家、空き家にしないために、今できる対策は?

高齢化が進む日本では、80代のおよそ3人に1人が認知症と言われています。判断能力が低下すると、不動産をはじめとする資産が凍結されて、必要な相続対策がとれなくなることも。今回は、ご両親が元気なうちに実家の相続の備えを行った事例をご紹介いたします。

実家が空き家になると、さまざまなリスクが。

ご相談者様は、実家のご両親と離れて暮らしているAさん(40代、女性)です。お父様には、認知症の兆候がありました。症状が進行して判断能力が低下すると、お父様が所有する資産の移動や処分は制限され、実家の売却やリフォーム、預金の引き出しなどができなくなってしまいます。かねてよりAさんは弊社のセミナーに参加して、この資産凍結のリスクについて学ばれており、「今のうちから対策をしたい」とご相談をいただきました。

お話を伺うと、Aさんは一人っ子で、実家に戻る予定はありません。お父様は認知症が進んだら介護施設に入り、病気がちのお母様はAさんの家で同居させたい、とのことです。ここで大きな課題となるのは、将来的に空き家となり得るご実家です。何も対策を取らないまま資産が凍結されると、Aさんは相続するまで実家を売却できず、空き家のまま保有し続けることになりかねません。

お父様にも、「住んでいる自宅をすぐに売却するつもりはないが、対策が遅れて娘に迷惑をかけたくない」という思いがありました。また、「空き家となってしまった実家を、遠方に住むAさんが長期にわたり管理する状況は避けたい」という気持ちは、親子で共通していました。

管理の権限を、先んじて「託す」。

将来的な資産凍結にどのように備え、子の負担を減らすのか。このようなケースへの解決方法として「家族信託」があります。これは老後や認知症に備え、保有する不動産や預貯金といった財産の「管理・処分の権限」だけを、あらかじめ家族のどなたかに託すこと。この事例だと、お父様の認知症が進行した場合に、娘であるAさんの判断・権限でお父様名義の実家を賃貸や売却することができます。しかし贈与した場合とは異なり、家賃や売却で得た利益はお父様が得ることとなります。Aさんのご家庭は親子関係が良好であり、父から娘への信託に支障はありません。

こうした家族信託の制度をそのまま利用することもできますが、お父様の所有する資産は「実家」と「預貯金」というシンプルな構成でした。そこでご提案したのが、実家の相続に特化したサービス「安心空き家信託(※)」です。通常の家族信託は、いわゆるオーダーメード的に組成するため、資産内容によって料金に幅が出ます。「安心空き家信託」の場合、ご自宅+現金(自宅維持にかかる費用)の信託に特化することで、家族信託の組成にかかる費用を明瞭かつ比較的安価に抑えることができます(今回のケースでは33万円)。このサービスをご利用いただくことにより、贈与税もかかることなく、Aさんはお父様名義の実家を必要に応じて売却するための権限を持つことができました。この先、お父様の認知症が進行し、資産が凍結されたとしても、柔軟な対応をとることが可能です。

家族信託のイメージ

早めのご相談が、納得のできる解決の鍵。

「父も肩の荷が下り、安心して自宅での生活を続けられると喜んでくれました」。Aさんからそうお聞きしたことが心に残っています。ご実家に関する対策は、親と子、両方のお悩みが解消されてこそより良い結果につながります。今回のケースは、決して特殊なケースではなく、弊社にもよく寄せられるご相談です。しかしながら実際には、親の認知症がだいぶ進んでしまってからご相談にいらっしゃるケースも多く、そうなると打つ手は限られてしまいます。両親ともに元気なうちからご相談いただけたことが、今回のご提案につながりました。

※安心空き家信託:家族信託を利用し管理権限をほかの家族に移しておくことで、認知症や急病などで所有者の意思表示ができなくなった場合でも、家族が柔軟に財産の管理を行うことができます。信託する財産を、実家を中心とした資産に絞り、書式を定型化することでシンプルかつ明瞭なパッケージプランにしています。